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東京高等裁判所 昭和60年(く)39号 決定 1985年8月26日

少年 K・G(昭41.5.6生)

同 T・I(昭41.7.19生)

右少年両名に関する各保護処分取消申立事件について、昭和60年2月7日東京家庭裁判所八王子支部がした決定に対し、少年K・Gの附添人弁護士O及び少年T・Iの附添人弁護士Pから各抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件各抗告を棄却する。

理由

本件各抗告の趣意は、右各附添人作成名義の抗告申立書(O附添人作成名義の抗告趣意補充書(一)及び(二)を含む)に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

第一少年K・Gの附添人Oの抗告趣意第一点(法令違反の論旨)について。

一  論旨は、要するに、原決定は、(一)任意性のない少年K・Gの自白を非行事実を認める証拠としたものであつて憲法31条、38条2項に違反する。(二)少年K・Gを昭和56年6月21日午前8時ころから長時間拘束したのは令状主義に違反した事実上の違法逮捕であり、かつ不公正な取調べを行つており、この結果得られた供述を理由とした逮捕勾留後の一連の供述調書は違法収集証拠であり証拠能力を有しないにも拘らず、非行事実認定の証拠としたのは違法である。(三)附添人がC、A、B等の証人尋問を請求したのにその取調べをすることなく右の者らの捜査官に対する供述調書を非行事実認定の証拠としたのは憲法37条2項の反対尋問権を侵害するものである。(四)附添人が、検証及び証人E、F等の尋問を諸求したのに、その証拠調べ行わなかつたのは職権証拠調義務に違反し、審理不尽の違法がある。(五)実行行為に関して重要な事実である道具類についての判断を回避したのは理由の不備である。(六)(1)Cの供述の信用性の判断その他2か所において「記録の全趣旨」で事実の認定をし、(2)原審決定時の調査官の調査段階での供述を自白の任意性判断の証拠とし、(3)別事件の観護措置決定の際、原裁判官は少年K・Gに対し本件についても質問をし、事実である旨の供述を得たことをもつて、裁判所に顕著な事実であるとし証拠調べをすることなく非行事実認定の資料とし、(4)民事訴訟における訴訟代理人の自白を重視して認定判断を行うなど、適法な証拠に基づかないで事実認定をした違法があるというのである。

二  よつて、所論にかんがみ記録を精査して検討するに、関係証拠によると、まず、本件の経過として次の事実が認められる。すなわち、(一)昭和56年5月26日午前1時40分頃、本件火災が発生し、(二)○○警察署は、同年6月21日午後5時55分少年T・Iを、同日午後6時少年K・Gを右放火の被疑事実につき通常逮捕したが、逮捕に際し、少年K・Gは「申し訳ありません。事実そのとおり火をつけました」旨、また少年T・Iは「そのとおり間違いありません。僕が見張りをし、K・Gが火をつけた」旨を申し立て、両少年は同日より同年7月9日まで逮捕勾留され警察官及び検察官の取調べを受けたが、供述の具体的内容については変遷があるけれども、放火したことについては終始これを認める供述をし、否認したことはないこと、(三)原原審における調査、審判を通じて少年K・G、同T・Iとも放火の事実を認める供述をしていること、(四)原原審裁判所は少年K・G、同T・Iにつき同年7月31日、初等少年院に送致する旨の決定をし、これに対し少年K・G、同T・Iとも抗告を申立てることなく右決定は確定し、両名とも赤城少年院に収容され、少年K・Gは昭和57年8月5日、少年T・Iは同年5月7日それぞれ右少年院を仮退院したが、その間本件非行を否認する言動を示したことはなかつたこと、(五)少年K・Gは仮退院後の昭和58年8月20日過ぎ及び9月3日の2回にわたつて、母親から注意をされる度にLさんのこともすんでいないし、保護観察の身だからとたびたびいわれたことから、自分とT・Iはオートバイに火をつけていないと述べ、また同年9月15日、11月22日に弁護士Oに対し、同年11月7日弁護士Qに対しそれぞれ本件非行を否認する旨の供述をし、少年K・Gの附添人Oは同年12月5日、少年T・Iの附添人Pは同月16日、それぞれ保護処分取消の申立をしたこと、(六)なお、本件被害者L、同M子は、昭和56年10月28日、少年両名等を相手どり5830万円余の損害賠償請求訴訟を提起し係属中である。

三  そこで、まず(一)の自白の任意性については、少年K・Gは弁護士Qに対する昭和58年11月7日付供述調書及び原審審判において所論にそう供述をしているけれども、同人は右の如く逮捕後は終始犯行を認めていたものであつて、右の供述は措信し難く、自白の任意性に疑いを抱かせるような事情が存しなかつたことは原決定の判示するとおりであり、記録を検討しても同人の自白の任意性に疑いは全く認められない。次に、(二)の違法収集証拠であるとの主張については、K・Gは昭和56年6月21日午前8時ころ警察より任意出頭を求められ、同日午後6時に通常逮捕されたものであり、その間警察官の取調べを受けたものであることが認められるが、右取調べをもつて直ちに逮捕ということの出来ないことは論をまたないところであつて、記録を検討するも、右が事実上の逮捕であつたと認めるべき事情は認められない。また、(三)の証人尋問権を侵害したとの主張については、原審が所論の証人尋問を施行しなかつたことは記録上明らかであるが、第三者の捜査官に対する供述調書を非行事実の存否の認定の資料とする場合に、当事者から当該供述者の証人尋問の請求があつたとしても、必らずしもその取調べを必要とするものではなく、その採否は原審の合理的な裁量に委ねられているものであり、その行使が合理的な裁量権の範囲を逸脱しない限り、証人を取調べなかつたからといつて証人尋問権を侵害したものということは出来ないものであるところ、記録によると、C、A、Bの供述内容は、他の証拠によりあるいは相互に裏付けられていて十分に措信し得るものであり、同人らにつき、証人尋問を実施しなかつたことが裁量権の範囲を逸脱したものとは認められないから所論は採るを得ない。また(四)の職権証拠調義務違反の主張については、本件記録中の各証拠に照らし、原審が所論の検証及び証人尋問を行わなかつたことが、証拠調の範囲、限度についての合理的な裁量の範囲を逸脱したものとは到底認められない。また(五)の理由不備の主張については、少年K・G、同T・Iは、放火に使用するライターの外に、オートバイの部品を盗むための道具を携行しているところ、同人らの供述を総合すると、少年K・Gがプライヤー及び鍵3個を携行したことが認められるのであつて、右に関し両名の供述に変遷はあるものの、右は同人らの自白の任意性に何らの疑いも生じさせるものではない。原決定が、右の点について判示しないことを以つて理由不備があるとはいえないことが明らかである。次に、(六)の適法な証拠に基づかない事実認定の主張について、まず(1)の「記録の全趣旨」による事実の認定については、原決定は、(イ)「原事件記録の全趣旨により認められる、Cは、少年K・G及び本件オートバイの所有者Nのいずれとも、特に深い交際や利害関係を有していないこと等の事実を総合すると、右Cの供述自体信用するに価する」旨、及び(ロ)「少年両名が・・・・・・同日午前1時25分頃、自転車(自転車を使用したことは、本件記録の全趣旨により認める)で○○を出発し・・・・・・」旨、また「少年両名は・・・・・・右現場と、F子方間の距離835メートルを自転車で走行(この際自転車を使用したことは、本件記録の全趣旨により認める)した」旨それぞれ判示していることが記録上明らかである。しかしCの供述調書によつても、同人が少年K・Gと親しくしていたものではなく、またNは兄の友人という関係に過ぎず親しくしていたものでなく、両名と深い利害関係を有していたものではないことが窺われ、また少年K・G及び少年T・Iが、○○から本件現場、さらに同所からF子方へはいずれもT・Iが乗つて来た同人の妹の自転車に2人で乗つて行つたものであることは、右K・G及びT・Iの各供述調書によつて明らかであるから、原決定の措辞は極めて妥当を欠くものではあるが、以上のとおりであつて原決定の右認定にかかる事実は本件証拠によつて十分に認められるところであり、結局決定に影響を及ぼす違法があるものとはいえない。(2)については、少年の調査官に対する供述を非行事実認定の証拠としてではなく、自白の任意性判断の資料とすることを違法とすべき理由は全くなく、所論引用の判例も右を違法とするものとは解されず、本件に適切ではないものというべきである。次に(3)については、原決定は、K・Gが別件毒劇法違反事件の観護措置決定に際し、同事件を担当した本件原審裁判官から質問を受け、本件非行事実は相違ない旨供述したことを原裁判所に顕著な事実として非行事実の判断の資料に用いていることは所論指摘のとおりであり、右供述が原裁判所に顕著な事実に当らないことは自明であるのみならず、原審裁判官とK・Gとの間に右のような質問応答があつたか否かについては記録を精査するも一切明らかではないのであつて、原決定の右の措置は違法といわなければならない。しかしながら、右の点を除外しても、後記認定のとおり本件少年院送致決定を取り消すべき理由の存しないことが明らかであるから、右の違法は決定に影響を及ぼすものではない。また(4)については、所論の民事訴訟における訴訟代理人の自白も非行事実についてのいわゆる情況証拠たり得るものであるから、所論は採るを得ない。

以上認定のとおりであつて論旨は理由がない。

第二少年T・Iの附添人Pの抗告趣意第一点(法令違反の論旨)について。

論旨は、要するに、原決定は、(一)任意性及び信用性のない少年T・I及び同K・Gの自白を非行事実認定の証拠としたものであつて憲法38条2項・3項、刑事訴訟法319条1項・2項に違反する。(二)(1)附添人申請の検証及び証人申請を採用せず、(2)カワサキZ400FXなるオートバイの事実上の検証をし心証形成の資料とし、(3)少年K・Gの別件についての観護措置決定に際し、本件原審裁判官が本件非行事実につき質問をし、同少年が事実である旨の供述をしたことを自白の信用性を認める根拠にしているが、右は証拠調べの範囲、限度、方法についての合理的な裁量権の範囲を逸脱し、且つ、憲法31条、37条2項、少年法14条、15条に違反するというのである。

よつて、所論にかんがみ、記録を精査して検討すると、(一)の自白の任意性の主張については、少年K・Gの自白に任意性が認められることは前記第一、三、(一)において判示したとおりであり、少年T・Iについても、同少年は、原審審判において所論にそう供述をしているけれども右に判示したとおり、少年T・Iも逮捕以来、警察官及び検察官の取調べに対し終始犯行を自白しており、また原原審における調査、審判を通じて事実を認め、初等少年院送致決定に対しても抗告の申立てをせず、赤城少年院に在院中も事を否認するような言動は全くなかつたものであつて、同少年の原審審判における前記供述が措信できないことは原決定が判示するとおりであり、記録を検討しても同人の自白の任意性に疑いを抱かせるような事情は全く認めることはできない。また(二)のうち(1)の検証及び証人申請を採用しなかつたとの点については、記録によると、少年T・Iの附添人は所論の検証及び証人申請をなしていないことが明らかであり、所論は前提を欠くものというべきである(なお所論の違法の存しないことは前記第一・三・(四)において判示のとおりである)。次に(2)の事実上の検証の点については、原決定には、原裁判所が本件オートバイと同種、同型のオートバイ及び異種、同型のオートバイについて2回にわたり事実上の検証を施行した旨、及び右によると本件オートバイのホースは、左手の操作により抜取ることが可能であると認めるのが相当である旨の記載があり、右事実上の検証の結果を非行事実の存否認定の資料としていることが明らかであるが、右検証については調書が作成されておらず、その結果がいかなるものであつたかについては、記録を精査するも一切明らかではない。そして、検証を行つたときは調書を作成しなければならないのであつて(刑事訴訟規則41条1項、2項。右の規定は本件保護処分取消手続にも準用があるものと解するのが相当である。少年法15条、少年審判規則55条。)、右調書を作成することなく、検証の結果を取消理由の有無の判断の資料とすることは違法の措置といわざるを得ない。しかし、右の資料を除いても、後記のとおり原決定の結論は正当であるから、右の違法は決定に影響を及ぼすものではない。また、(3)の別件観護措置の際の供述については、前記第一・三・(六)において判示したとおりであつて、右供述を非行事実認定の資料としたことは違法であるが、決定に影響を及ぼすものではない。以上認定のとおりであつて、所論は理由がない。

第三少年K・Gの附添人Oの抗告趣意第二点及び少年T・Iの附添人Pの抗告趣意第二点(いずれも事実誤認の論旨)について。

各所論は要するに、少年らは本件非行事実を犯したものではないのに、これを認定して、少年らをそれぞれ初等少年院に送致した本件保護処分決定を取り消さなかつた原決定には、重大な事実の誤認がある、というのである。

しかしながら、記録を精査して検討するに、原決定が本件保護処分決定の認定した放火の非行事実の存在に合理的な疑いを容れる余地はなく、その認定を覆すべき明らかな証拠もないとした認定判断は相当であり、その理由として原決定が詳細に説示しているところも、前段で指摘した点を除き概ね正当として是認することができる。

各所論は、特に少年K・G、同T・Iの供述調書の信用性を争い、種々主張しているけれども、AからBを通じて、同人らに対し本件オートバイを焼燬すべき旨の指示があり、同人らがこれに従わざるを得ない立場にあつたこと、少年K・G、同T・Iの間に昭和56年5月23日夜、右の焼燬について事前の共謀が成立していたこと、少年K・Gが同月25日朝、「今日火事があるかもしれない。」と火災の予告めいた話を他にもらしたこと等に関する供述部分は、A、B、D、H、Cら各関係者の供述によつても裏付けられており、その信用性に疑問の余地はないものと認められる。

もつとも、本件オートバイに対する放火の実行行為に関する少年K・G及び同T・Iらの供述部分には、たしかに変遷がある。しかし、逮捕直後の同人らの供述中には、少年K・Gのみが放火の実行行為をし、少年T・Iは見張りをしていたにすぎないとの趣旨の部分があるけれども、少年K・Gがライターで本件オートバイの座席シートを燃やそうとしたとの点については、同少年の供述は終始一貫しており、少年T・Iの逮捕の翌日以降の供述も、本件オートバイのコックをいじり、ホースをはずしたら、ガソリンが出てきたとする点において、ほぼ一貫している。そして、火の燃えあがつた原因についても、供述の変遷はあるが、結局は、少年T・Iが本件オートバイのコツクを動かし、ホースをはずしたら、ガソリンが流出してきたので、これに点火すると、火が燃えあがつた旨を供述し、なお少年K・Gも逮捕の翌日から、少年T・Iのいる方でスポンという音がして、ガソリンの臭いがした旨を述べており、その後、右の音や臭いに続いて、少年T・Iがライターをつける音がしたら、火が燃えあがつた旨を述べて、少年T・Iの供述に符合する供述をしている。

右のように、同人らの供述過程には、逮捕の当日もしくは翌日から一貫している部分もあること、司法警察員作成の昭和56年7月9日付裏付捜査報告書及び同月4日付実況見分調書により、本件のようなオートバイのコツクレバーが「PRI」の状態になつたとき、ガソリンタンク内のガソリンが流出する事実が裏付けられていること等を総合すると、少年らのこの実行行為に関する供述部分も、大筋において信用性があるものと認められる。

そして、少年らの各供述調書を含め、本件保護処分決定時における全ての証拠資料を総合して考察すると、本件各保護処分決定が認定した非行事実の存在に合理的な疑いを容れる余地はないものと認められる。

そこで、さらに本件各保護処分決定が認定した非行事実を覆すに足る明らかな証拠があるか否かを、附添人らが提出した資料に基づいて検討する。

(一)  少年K・Gの弁護士に対する供述調書3通について

その内容は原決定に記載されているとおりであるが、アリバイを主張して本件火災事件への関与を否定する部分は、F子の検察官に対する供述調書に照らして措信できないし、また捜査官から暴行等を受け自白したとの部分も、原決定が説示しているように、それを窺わせる資料がないこからみて、にわかに措信できず、更に右の否定を初めた経緯に関する部分にも、たやすく首肯しがたいものがある。いずれにしても、本件保護処分時及び捜査段階における少年らの自白を覆すに足るものではない(この点は、少年らの原審判廷における供述についても同様である)。

(二)  弁護士O作成の報告書(昭和58年12月5日付)について

右はEから、同弁護士が確認したところを記載したというものであるが、右Eは、少年K・G及びCの捜査官に対する供述において、少年K・Gが前記の火災の予告めいた発言をした場に居合わせたとされているものであるところ、同報告書にあるように、Eが少年K・Gのそのような発言を聞いたことがないとしても、このことから直ちに、これを聞いたとするCの供述を覆すに足るものではない。

(三)  弁護士O外3名作成の報告書(昭和59年8月21日付)について

右は、本件オートバイと同一車種のオートバイを使用し、被害者L方応接間と、出火当時これに近接して置かれていた本件オートバイとの間隔を二通りに再現し、少年T・Iの捜査官に対する供述にあるように、コツクのゴムホースを左手で抜く操作ができるか否か等を実験した結果が記載されたものである。しかし、同実験の結果中には、実験者が右の間隔に入つて、その操作をなすことが不可能とされている部分もあるが、その間隔如何によつては(実際の間隔がどれほどであつたかについては、証拠上必ずしも確定しがたい)、同様の操作が可能であつたとみられる部分もあり、特に司法警察員作成の昭和56年7月7日付実況見分調書の添付写真にあるように、少年T・Iが当時きわめて細身の体であつたことを考えると、同実験の結果をもつては、いまだ少年T・Iの右供述を覆すに足りない。

(四)  弁護士P作成の報告書(昭和60年1月16日付)について

右は、本件オートバイのそれと同一の座席シートを、ライターの炎で焼いた実験の結果等が記載されたものである。

右実験によれば、たしかに、右の所為によりシートの表面の一部が焼け溶けて落下したとの少年K・Gの捜査官に対する供述部分の信用性を疑わしめるものがある。しかし、それだからといつて、同少年の放火の実行行為に関する供述全体が虚偽であることには直接結びつかず、ましてや、少年T・Iの同実行行為に関する供述をなんら左右するものではない。

なお、弁護士Oの申出による、○○重工業株式会社単車事業本部からの東京弁護士会長宛照合回答書についても、結論は同じである。

以上のとおり、右の各資料をもつてしては、いまだ既に確定した本件各保護処分決定の非行事実の認定を覆すには足りず、これらは本件非行事実がなかつたこと、ひいては少年らに対する審判権がなかつたことを認めることが明らかな資料にはあたらないというべきである。

第四結論

よつて、少年らに対する本件各保護処分決定を取り消さない旨の原決定は相当であり、本件各抗告は理由がないから、少年法33条1項後段により、これらを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐々木史朗 裁判官 田村承三 本郷元)

〔参考〕少年K・Gに対する現住建造物等放火保護事件(東京家八王子支 昭56(少)3518号 昭56.7.31決定)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(一) 非行事実

少年はA、B、T・Iと共謀の上、昭和56年5月26日午前1時40分ころ、日野市○○字○○××番地の×、Lほか3名が現に住居として使用する木造二階建居宅(床延面積112.20平方メートル)の階下南側応接間に接着しておかれていた自動二輪車のガソリンタンクからキャブレターに接続してあるゴムホースを取り外し、同タンク内のガソリンを流出させた上、これに所携のライターの火で点火して上記自動二輪車に放火し、さらに上記建物羽目板に焼え移らせ、もつて人が現に住居として使用している建物を全焼させたものである。

(二) 上記(一)の事実に適用すべき法令

刑法60條、108條

(三) 処遇理由

少年の、知能性格等は東京少年鑑別所作成の鑑別結果通知書の、家庭環境生育歴非行歴等は少年調査票の各記載のとおりであり、これら本件調査審判に現れた一切の事情、特に

1 本件は家屋1棟を全焼させただけでなく、同家屋の住人1人(13歳の女性)を焼死するに至らしめたものであつて、事案は極めて重大であり、又新聞等に大きく取上げられ、地域社会に與えた影響も極めて大きなものがある。

2 本件は暴走族の対立抗争から、相手方構成員所有の自動二輪車を損壊することを目的としてなされたものであり、少年はグループの先輩等に命ぜられるままに実行行に及んだものである。少年にはグループの厳しい掟に背くことが難しい事情にあつたことが認められるものの、反面中学生であり乍ら学校内のツツパリグループに所属するのみでは足りず、年長不良少年のグループに加入し、年齢不相応の広い範囲に及ぶ逸脱行動を続けていた点をより重視せざるを得ない。

3 少年は知能が低く(I.Q=75)、登校することはあつても授業は全く受けて居ないに等しく、時に教師に激しく反抗する等の状態の為学校当局は教育の限界を訴えて居り、この儘学校生活を続けさせることは少年の非行性を進行させる結果に終るものとしか考えられない。

4 少年の家庭は父母共に知性に乏しく、少年の知能等の問題点を理解できず、指導に適切さを欠いた点は否めないものの、経済的には余裕があり、家族間の葛藤は全くといつてよい位見られず、少年に対する指導も熱意の点では水準以上のものを持つている。

然し本件の結果が余りにも重大であり、被害者をはじめとする地域社会の厳しい目の中で今後どのようにして行つたらよいのか苦悩の色が濃く、少年を在宅処遇した場合、家族の精神的負担は余りにも大きく、それが少年の上に大きくかぶさつてくることは避けられない。

等の諸点と年齢を総合すると、少年の非行性は在宅保護の措置をもつてしてはとうてい取り除くことができないものと認められるから、少年に対して矯正教育を施し心身陶治の機会を与えその健全な育成を図るため、少年を初等少年院に送致することとする。

(四) 結論

よつて、少年院送致につき少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条、を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 助川武夫)

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